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イトーキのタスクチェア「Act2」が採用した“呼吸する座面”の秘密
2025年6月6日 08:20
イトーキは、オフィスチェアの新製品「Act2(アクトツー)」を6月4日に発売した。2018年に登場した前モデル「Act」は、「ワークパフォーマンスを最大限高める」をコンセプトとした製品で、多様なワークスタイルに対応する可動性とサポート力を備えていた。
今回発売されるAct2は、その思想を継承しつつ、座面の通気性や支持性能、素材の持続可能性を重点に6年ぶりにフルモデルチェンジを果たした。従来モデルでは座面に一般的なモールドウレタンを採用していたが、Act2ではイトーキが新開発した「レスピテック座面」を搭載。これにより、座り心地の質と耐久性の両面で刷新を図っている。開発を担当した商品開発本部の高橋 謙介氏に話を伺った。
“次なるスタンダード”を目指して6年ぶりに刷新
Act2はランバーサポートの構造やヘッドレストの調整機能、デザインの統一感など、使用感・機能性・意匠性の各面において細かな改善が加えられている。イトーキとして、長時間座ることが前提となる現代のワークスタイルに対応した“次のスタンダード”を目指した製品として開発したという。
大きな変化となるのが、呼吸する座面を謳う「レスピテック座面」の採用だ。レスピテックは、2種類の異なる通気性素材を積層した二層構造からなる。上層には帝人フロンティアが開発したポリエステル不織布「Fibre Cushion VL(ファイバークッション VL)」が使われている。この不織布は、繊維が縦方向に整列することで、コシがありつつも柔らかい座り心地を実現。
下層には東洋紡エムシーのエラストマー素材「ブレスエアー」を採用し、粗いループ構造によって空気の通り道と反発力を確保した。「上層は細くて密、下層は太くて粗い。この組み合わせが通気性と支持性の両立を可能にしている」と高橋氏は語る。
素材の選定に加え、厚みや密度、プレス加工の加減といった加工条件も、座り心地に大きく影響する。高橋氏によれば、数十パターンに及ぶ試作を重ねた結果、「沈みすぎず、硬すぎない」理想的な座り心地を実現することができたという。
これまで多くのチェアに採用されてきたモールドウレタンは、1958年にデンマークの建築家アルネ・ヤコブセンが「エッグチェア」で初めて用いたことで知られている。それ以来、半世紀以上にわたり、モールドウレタンは椅子の座面素材として第一線を支えてきた。
そうしたなかで今回、イトーキがその素材に代わる新たな座面構造を採用した背景には、同社にとっても大きな挑戦と試行錯誤があったことがうかがえる。
耐久性についても一般的なウレタンフォームとは異なる結果が得られた。15万回、約80kg相当の繰り返し荷重試験でも、座面の寸法変化がゼロだったという。エラストマーの弾性によって形状が回復するため、柔らかさとへたりにくさが両立されている。
また、レスピテックは熱可塑性樹脂で構成されており、高温で溶解し再成形が可能。ウレタンフォームと異なり、リサイクルが可能な素材として、環境にも配慮しているという。
イトーキではこの素材を将来的に他のラインナップにも展開していく考えで、レスピテックには専用ロゴや紹介サイトも用意。高橋氏は「一つの素材にここまで力を入れるのは社内でも珍しい。Act2を皮切りに標準素材として展開を計画している」と語った。
細部も改良を加えて実用性向上
座面だけでなく、身体を支える周辺機能も進化した。腰部を支える機構は「ペルヴィス&ランバーサポート」へと刷新され、下部のパッドで骨盤を、上部で腰椎を支える二重構造となっている。透明度の高い素材を採用し、背面から見たときのデザインの圧迫感も軽減している。
ヘッドレストは可動式の「アジャスタブルヘッドサポート」に変更され、前後30度の角度調整と高さ調節が可能になった。頸椎から後頭部を自然に支えるよう、カーブを持たせた形状となっている。
また、アクトチェアシリーズで定評のある「アジャスタブル肘(4Dリンクアーム)」も搭載。体格に応じて適切なポジションに肘を支えることで、肩や腕への負担を軽減する。
デザイン面では、マット仕上げや色調の統一によって空間との調和性を高めた。イトーキにはCMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ)と呼ばれる専任チームがあり、素材・質感・色のトレンドを反映した設計が行なわれている。
座面下には「ベンディングシート」と呼ばれる樹脂のたわみを利用した機構を備え、底付き感を抑えて適度なたわみを生む構造を採用。背もたれ上部のフレームもしなる設計で、身体の動きに追従する。
ゲーミング用途にも配慮し、長時間のプレイにおける通気性、VR等のヘッドマウントディスプレイ装着時の頭部支持、肘のサポートを受けられる。
メンテナンス面では、薄めた一般的な中性洗剤を使った拭き取りで十分とされており、特別な手入れは不要。ただし、レスピテックは通気性に優れる反面、濡れたままだと乾燥に時間を要するため、モールドウレタンと同様に過度な水洗いには注意が必要だという。
また、エラストマー素材を用いた背もたれやアームレストは、アルコールや次亜塩素酸水による消毒にも耐性があるため、サッと拭くことができる。ビニールレザータイプのアジャスタブルヘッドサポートも同様に耐性があるとしている。
筆者もショールームでAct2に試座したが、座面は適度に沈み込みながらも安定感があり、ヘッドレストも後傾姿勢時に自然にフィットした。座面に重点を置いた設計ではあるが、全体としてバランスをとった構造となっている印象だ。ただし、レスピテック座面を使用したときの「ムレ」感については限られた時間での試座では分からない部分もあり、継続的に使って判断する必要があるだろう。
筆者が試座した場所は、東京・京橋の「ZA SALON TOKYO(坐サロン 東京)」。このショールームは、インターネット経由で購入を検討する個人ユーザーを対象にした予約制の無料体験サービスを実施している。とりわけ「椅子は座ってみないとわからない」という声を反映し、オフィスチェアなどの試座ニーズに対応するため2022年9月にオープンした。
また、出張坐サロンも開催予定で、大阪(イトーキ 大阪ショールーム)では6月21日・22日、名古屋(ITOKI NAGOYA DELA)では7月12日・13日、8月2日・3日に実施する。いずれも完全予約制で予約は「ZA SALON TOKYO」のWebサイトで受け付けている。
Act2は同社のオンラインショップで、エラストマー仕様が127,000円から、メッシュ仕様が114,000円から購入可能。