小寺信良のくらしDX
第27回
飲食店もDX。その先に満足はあるか
2025年5月30日 10:00
飲食店の受付方法にも、着実にDX化が起こっている。以前は受付の前の紙に名前と人数を書いて、店員さんが呼びに来るまで店の前で待つというスタイルだった。人気のラーメン店などは、未だ単に列を作って待つだけというシンプルなスタイルも多い。
それが昨今は受付前に設置されたタッチパネルを使って、人数を入力すれば番号札が発行され、順番が来たら番号で呼ばれるといったスタイルの店舗も増えた。中には番号札記載のQRコードを読み込めば、スマホに順番が近づいたことを教えてくれるシステムもある。店の受付付近で無駄に待つ必要もなく、その間に近所に買い物に行ったりといった用事を済ませることができて、効率的だ。
一方でこれは良くないなというUIに出会うこともある。先日訪れたラーメン店も上記のようなタッチパネル受付システムだったが、17インチほどの大型ディスプレイの割には、操作用として表示されるボタンが小さく、画面にやたらと空白が多い。「次へ」のボタンは画面の右端にあるが、そのボタンが細いので、全体を舐めるように見渡さないと気が付かない。
受付を済ませて待っていると、高齢の女性2人組が操作がわからず、助けて欲しいというのでお手伝いした。最初に大人の人数を入力し、次へ。次に子どもの人数を入力するが、いない場合は「0」を入力して次へ、というUIは、理屈ではそうなるとは思いつつも、いない人数を入力させるという考え方は、飲み込みづらい。必要ないなら無入力で次に行かせるべきだろう。
店側にとっては、事前に子どもの有無を把握することにメリットがあるのかもしれないが、学校がある平日の昼間に子どもを連れてランチに来る人は、土日よりはずっと少ないはずだ。大多数の人にとっては無駄な入力であり、こういうことをなんとかするのがDXだろう。
パッと見て意味がわからないUIというのは、誰が考えるのだろうか。ある処方箋薬局の受付では、病院から発行された処方箋をスキャナで読み込ませる作業が必要なのだが、「印字されている面と反対側の面を上に」と書いてある。これ、パッと見て紙を表にするのか裏にするのか、わかるだろうか。
正解は、「印字面を下に」である。たったこれだけを書けば、みんなわかる。処方箋を手にしている人は、その書かれている情報に意味があり、紙は印字面にしか興味がない。それなのに、急に「印字されている面の反対側」を認識させ、それを上にするのか下にするのかを指示するものだから、ワケがわからなくなる。
その薬局には3カ月に1回程度しか行かないので、毎回混乱する。一体どういう間違いやクレームがあってこうした表現になったのか、知りたいところである。
未だドライブスルーに長蛇の列ができる不思議
首都圏から宮崎市内に引っ越して驚いたのが、マクドナルドやスターバックスといったファーストフード店のドライブスルーに、毎日一般道まではみ出して数十メートルにも及ぶ長蛇の列ができることである。おかげで車道が1つ塞がってしまい、直進したい車は渋滞列を避けて、右側のレーンへ車線変更しなければならない。
マクドナルドやスターバックスは、スマホアプリによるモバイルオーダーが可能だ。特にマクドナルドは、駐車場番号を入力すると、そこまで店員さんが持ってきてくれる「パーク&ゴー」というサービスがある。スターバックスの場合は、商品ができたらプッシュ通知で知らせてくれるので、駐車場で待っていればモバイルオーダー専用窓口で受け取れる。
スマホでオーダーできることを知らないわけではないだろう。回転寿司チェーンでは、店内飲食でも持ち帰りでも、スマホで事前受付するのが一般的になっている。しかしドライブスルーがあると、ひたすら渋滞覚悟で行列する。
モバイルオーダーはしても、受け取りのためだけにドライブスルーの列に並んでいるとも考えられるが、これは非常に時間効率が悪い。すでに注文の品は出来上がっていても、順番が抜かせないからだ。
こうした渋滞がなぜ起こるのかを想像するに、いちいち駐車するのがめんどくさいといったことよりも、車から降りたくないという事情はあるかもしれない。地方では車による移動時間が長いため、車の中は快適な居住性が求められる。店は「外」だが、車の中は「家の延長」だ。外に出られる服装ではないこともあり得る。
車に乗っているということは、部屋着の上によそゆきのコートを着て隠している状態であり、コートを脱いだら店内に入れる格好ではないということかもしれない。こうした感覚がある以上、ドライブスルーのDX化は難しそうだ。
現実にはドライブスルー渋滞解決のために、ドライブスルーを2レーンにするといった取り組みも始まっている。「そうじゃない」と誰もが思っているだろう。
オーダーに良質の体験はあるか
店の中に入ると、席ごとにタブレットが設置されていることが多くなった。冊子状になったメニューはなくなり、タブレットに表示されるメニューから直接オーダーできる。ファミリーレストランや回転寿司チェーンで多く見かける方法だ。
回転寿司大手「はま寿司」では、寿司レーンの目の高さの位置に幅60cm、高さ6cm程の細長いディスプレイを貼り付けて、そこに流れる寿司の写真からもオーダーできる。誰かがタブレットを専有していても、レーンに近い人はここから注文すればいい。
同じく回転寿司大手「スシロー」では、一部の店舗に実物大の流れる寿司を再現した大型ディスプレイ「デジロー」を設置した。これも同様に、欲しい商品が流れてきたら、それを捕まえてタッチすれば、オーダーへ進める。この2つは、古き良き「流れていくお寿司」を見ながら取っていたインターフェースを、デジタルサイネージ技術を使って再現したものとも言える。
オーダーをDXしながら、紙のメニューの体験も残したUIも存在する。外食大手「サイゼリヤ」では、紙の大型メニューに掲載されたQRコードをスマホで読み込むとオーダーサイトへ飛び、メニューに書いてある番号を入力することでオーダーできる。大きな写真で商品を見ながら、ページを行ったり来たりして選ぶ楽しみを残しつつ、席に1台ずつ端末を配置するコストを削減した。塩抜きでとかオイル少なめにといった細かい注文は、以前のように店員さんに頼むこともできる。こうしたDXは、従来の食事体験を維持しつつ、オーダーの確実性と効率化を実現した例である。
一方でユーザー体験としてマイナスのように思われるのが、LINEを使ったオーダーシステムだ。まずは飲食店アカウントと「友だち」にならなければならない。メニューもスマホの中にしかなく、小さな画面をスクロールしたりめくったりして商品を探す必要がある。
複数人で訪れた飲食店では、来店したメンバーで一緒に大きなメニューを見ながら決めるのが楽しいわけであって、一人一人が個別にオーダーできる必然性はない。また代表者のスマホをみんなで覗き込んで、ヤキトリは人数×2で、サラダはないのかなどという話を、いっぺんにはさばききれない。
そこから数日経つと、友だちになった飲食店から頻繁にお知らせが届くようになり、なんでこの店と友だちになったんだっけ? と首をかしげることになる。
あの方式は、店側にとっては設備投資もいらないしアフターフォローもできるので最高なのかもしれないが、顧客体験としてはあまり良い印象は残らない。
やはりそこには、何のためのDXなのかというところの方向性に履き違えがあるように思える。受付やオーダーシステムの変更は店舗側のコストなので、効果としては店舗側の効率化や回転率の向上、従業員の負担低減があり、その先には利益率向上といったことが期待される。
一方で受付やオーダーシステムを操作するのは来店客であり、本来なら店舗側の仕事であったことを、客にやらせることになる。当然初めてやるという人は相当数いるわけで、誰にでもわかりやすく、それを使うメリットが客側にもなければならない。
また飲食店での食事の楽しみが、DX以前と以後で変わらず維持できているのかという点も重要である。単に同じ品質の食事が出てくるから楽しみは変わらないはず、とは言えないのではないか。
飲食店での食事は、単にカロリー摂取のためではなく、その半分は「体験」で成り立っている。店員の態度の悪い店なら、二度と行くもんかと心に決める人は多いはずだ。その店員の手間を削減すれば人的な間違いは減らせるのだが、顧客が求めているものはそれではないかもしれない。
とかくヒューマンインターフェスとはめんどくさいものではあるが、わかりやすさや便利さは1つの良体験につながる。こうしたシステムの導入には、顧客の立場に立ってメリットがあるのか、システム会社の営業トークを聞くだけでなく、店のオーナーが実際に自分で体験して、よく考えてみるべきであろう。